以前の記事では「事業承継」について取り上げましたが、その前段階として「法人成りについても知りたい」という事例が増えてきました。
とくに、個人事業として建設業を営んでいる方が、「そろそろ子どもに事業を引き継がせたい」と考え始めたタイミングで、法人化を検討するケースが多く見られます。
法人化したうえで、その法人に建設業許可や事業を譲渡し、将来的には子ども、あるいは第三者に法人ごと承継してもらう
こうした流れは、スムーズでリスクの少ない承継方法の一つです。
今回は、そのような場面で押さえておきたい「法人成りの主なポイント」について整理してお伝えします。
1. 全体の流れ(まず全体像)
個人事業の建設業許可を、新しく作った法人へ引き継ぐ方法です。
「事業譲渡」+「承継認可申請」
を使うことで、無許可期間ゼロでスムーズに法人へ移行できます。
2.法人化のメリット・デメリット(建設業者向け)
■メリット
・役員報酬を経費にできる
➡ 給与所得控除が使えるため、個人事業より税負担が軽くなるケースが多い
➡ 役員報酬は「定期同額給与」が原則。議事録の作成・保存が必須
・法人税率は一定(中小企業)
800万円以下:15%/800万円超:23.2% ➡ 所得が増えるほど有利になりやすい
■デメリット
・設立費用がかかる
定款認証・登録免許税・専門家報酬など
・社会保険加入が必須
代表者1名でも加入義務 ➡ 未加入だと現場入場・元請選定で不利
3.法人化時の重要ポイント(失敗しないための3点)
① 営業所要件
・自宅を営業所にする場合は自治体の運用に注意
・固定電話・机・書庫・看板・使用権限書類など「実体」が必要
② 財産的基礎(500万円)
・開始貸借対照表で純資産500万円以上(資本金額ではなく、実際の残高重視)
・不動産評価額との合算は不可
・運転資金も含めて慎重に計画
③ 定款目的
・「工事の請負及び施工」を必ず記載
・予定業種も明記すると申請がスムーズ
・記載漏れは定款変更が必要になり、時間と費用が増える
4. 事業承継の方法(個人 ➔ 法人)
| 方法 | メリット | デメリット | 実務判断 |
| ①法人で新規許可取得 | 手続きが簡単 | ◦無許可期間が発生 ◦許可番号が変わる | 小規模・急ぎでない場合 |
| ②許可承継(事前認可) | ◦無許可期間ゼロ ◦許可番号そのまま | ◦要件が厳しい ◦事前準備が多い | 法人成りの標準ルート |
⚠️中小の個人から法人成りの場合、近年は「許可承継(事業譲渡等)」を選択するケースが多い
5.許可承継の主な要件
・承継効力日前に認可が必要(事後認可不可)
福島県:30日前に認可が下りるよう調整 ➡ 事前相談は2か月前からが目安
・建設業の“全部”を承継
一部のみ承継したい場合は、個人側で一部廃業届を提出して調整
・法人側が許可要件を満たすこと
経管/専技/社会保険加入/500万円の財産的基礎/営業所の実在性/欠格要件
・個人事業主が法人の常勤役員になること ➡ 社会保険加入が常勤性の証明として必須
6. 手続きのステップ)
① 事前準備(1〜2週間)[行政書士]
・個人・法人双方の要件確認
・経管・専技の配置
・社会保険加入時期の調整
・必要書類の収集
② 会社の基本事項決定(1〜3日)[行政書士or司法書士]
・商号/所在地/目的(許可業種)/資本金/役員/決算月
③ 資本金の払い込み(即日〜)[司法書士]
・発起人個人口座へ入金
・払込証明書を発起人名義で作成
④ 定款作成・認証(3〜5日)[行政書士or司法書士]
⑤ 法人設立登記(1週間前後)[司法書士]
・登記完了後、登記事項証明書・印鑑証明書を取得
⚠️実務上は各種書類取得まで含めて1〜2週間
⑥ 税務届出・保険加入(1〜2週間)[税理士・社労士]
・法人設立後すぐに社会保険加入(承継認可申請時に、経管・専技の常勤性を確認するため)
・法人設立届、青色申告、給与支払事務所開設届
・健康保険・厚生年金保険新規適用届
⑦ 行政庁へ事前相談(承継効力日2か月前〜)[行政書士]
・承継日、要件、必要書類、県のローカルルール確認
⑧ 事業譲渡契約書の作成(1〜2週間)[行政書士]
・事業一式を譲渡
・効力発生日は「承継認可日当日」
⑨ 承継認可申請(承継効力日の2か月前~)[行政書士]
・審査期間:30〜45日
・個人の許可は維持したまま申請
⑩ 承継認可(許可が法人へ移る)
・無許可期間ゼロ
・許可番号・有効期間はそのまま
⑪ 個人事業の廃業届(1か月以内)[行政書士]
・国保・国民年金の資格喪失
⑫ 取引先への挨拶・名義変更
7.経管・専技の証明書類
■ 経営業務管理責任者(経管)
🔲 許可申請書副本
🔲 青色申告決算書
🔲 工事契約書・請書・請求書
🔲 被保険者資格取得届(写し)
🔲 被保険者記録照会回答票
🔲 住民票(常勤性確認)
■ 営業所(専任)技術者(専技)
🔲 工事契約書・注文書・請求書
🔲 工事台帳
🔲 許可申請書副本
🔲 10年証明(実務経験)
🔲 指定建設業は国家資格必須
8.社会保険加入(承継認可で強く求められる要件)
・法人設立日から加入が最も安全
・経管・専技の常勤性証明に不可欠
・資格取得届で代替可
9. よくある質問
Q. 工事が止まる期間はありますか?
➡ ありません。承継認可が下りるまで個人の許可で営業できます。
Q. 許可番号は変わりますか?
➡ 変わりません。番号・有効期間はそのまま法人へ引き継がれます。
Q. 法人設立後すぐに工事を請け負えますか?
➡ 承継認可が下りるまでは、法人は工事請負ができません。個人名義で継続します。
10. 行政書士がサポートする内容
• 法人成りの全体設計
• 行政庁への事前相談
• 事業譲渡契約書の作成
• 承継認可申請書類の作成・提出
• 経管・専技の証明書類の整理
• 手続き全体のスケジュール管理