2025年10月、警視庁は、外国人材派遣会社の代表ら4名を、出入国管理及び難民認定法違反(不法就労助長)の疑いで逮捕しました。逮捕されたのは、同社代表のほか、外国人を受け入れていたリ企業の役員らです。
(1)問題の構図
・農業分野の「特定技能」資格を持つインドネシア人を、資格外のクリーニング工場に派遣
・派遣先は温泉旅館などに寝具を供給するリネンサプライ業者
・2022年から2025年にかけて、約120人の外国人が対象外業種で働いていたとされ、約7,000万円の利益が発生
・登録支援機関としての立場を悪用し、手数料を得ていた疑い
容疑者の一部は「農業の仕事がない時期は、他業種で働けると思っていた」と供述していますが、特定技能制度では、就労可能な業種が厳密に定められており、現時点でリネンサプライ業は対象外です。
(2)特定技能制度とは
2019年に導入された「特定技能」制度は、人手不足が深刻な業種に限り、外国人労働者の受け入れを認める制度です。対象分野は介護、農業、建設など16業種に限られており、就労には技能試験や日本語試験の合格が必要です。
登録支援機関は、特定技能人材の生活支援や雇用管理を担う役割を持ち、出入国在留管理庁に登録することで活動が認められます。しかし、制度上は「登録制」であり、技能実習制度のような第三者による定期的な実地検査は義務付けられていません。この点が、制度運用の甘さとして指摘されています。
(3)外国人の処分はどうなるか。
原則として、在留資格に反する活動(資格外活動)を行った場合、退去強制事由に該当する可能性があります。
ただし、本人が「制度を知らずに働いていた」「雇用主に従っていただけ」という事情がある場合、情状酌量の余地があり、必ずしも即強制退去とは限りません。
外国人本人は「不法就労罪」ではなく、資格外活動による在留資格違反として行政処分の対象になることが多いです。このような事例は、外国人本人の理解不足だけでなく、支援機関や雇用主の説明不足・管理体制の不備が原因であることが多いため、今後は以下のような支援が重要です。
・やさしい日本語や母語による制度説明
・就労前の業務内容確認と契約書の翻訳
・定期的な面談や相談窓口の設置
(4)今後の課題
今回の事件は、制度の隙を突いた不正仲介の典型例といえます。外国人労働者の保護と制度の信頼性を維持するためには、登録支援機関の監視体制強化や、対象業種の明確化・柔軟な見直しが求められます。
政府は現在、リネンサプライ業を特定技能の対象に追加する方向で検討を進めているとの報道もありますが、制度変更前の違法派遣は厳しく問われるべきでしょう。登録支援機関を目指している私も肝に銘じるべき事例となりました。